「よい子」を振る舞うモンスター小学生が急増しているワケ

近年、日本の小学校では、優等生を演じながらいじめや問題行動を裏で起こす「モンスター小学生」が増加しています。

今後は教師や保護者などが連携し、児童一人ひとりの個性に合わせた新しい教育システムの構築が必要となるでしょう。


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ダイヤモンド・オンライン
「よい子」を振る舞うモンスター小学生が急増しているワケ
岡田光雄 2020/10/18 06:00
「校内暴力」や「学級崩壊」などの言葉は久しく聞かれないが、いま小学校では新たな問題が顕在化してきている。「よい子」を振る舞う児童が急増し、裏ではいじめや問題行動を起こしているという。その理由を28年間小学校教諭として教壇に立ち、現在は白梅学園大学子ども学部子ども学科で教える増田修治教授に聞いた。(フリーライター 岡田光雄)

児童の半数が「よい子」を演じ いじめの主犯は陰で操る

 新型コロナウイルスによる影響で、多くの小学校では長らく休校を余儀なくされ、児童の学習に遅れが生じている。そんな中での今年6月、増田教授は429人の小学校教員らに実施したアンケート結果を発表(調査期間は2019年9~10月)。それによれば、「『よい子』を振る舞う生徒が増えたと思うか?」という問いに「そう思う」「やや思う」と回答した教員は48.5%に上った。同様の調査を行った1998年は35.4%だったため、13ポイント以上も増えた計算だ。

 増田教授は、「よい子」を振る舞う児童とは「表面的には反発やキレたりなどせず、先生の言うことをちゃんと聞いているけれど、内心ではストレスや不安などをため込んでしまっている子」と説明する。そうした児童は具体的にどのような問題行動を起こしてしまうのか。増田教授が調査した2つの学校の事例を紹介したい。

 1つ目に紹介する事例は、ある市立小学校での出来事だ。

「その小学校では、4階のトイレの窓からトイレットペーパーや洗濯ばさみ、ぞうきん、手袋などが、窓のそばの道路に投げ捨てられるという事案が発生し、地域住民にも大きな衝撃を与えました。いたずらを行ったとされる5年生の児童3人を突き止め、問いただそうとしましたが、彼らは最後までシラを切り通しました。おそらくは私たちに現場を見られているわけではないので、ごまかせると思ったのでしょう。この3人のうち1人は実行犯ではなく一見すると『よい子』でしたが、陰で人を操るタイプでした。他の児童たちも彼らが犯人だと知っていたようですが、報復を恐れてかほとんど誰も名前を言いませんでした」(増田教授、以下同)

 2つ目に紹介するのは、首都圏にある小学校の特別支援学級(支援が必要なハンディがある児童がいるクラス)のケースだ。

「その学校の通常学級に通う児童が、特別支援学級のハンディのある児童に対し、いじめを日常的に行っており、『お前、なんで生きてんの?』『死ねよ』など信じられないような罵詈(ばり)雑言を浴びせていました。このケースの場合もいじめを裏で主導していたのは、いわゆる『よい子』タイプの児童。その子はとても頭がよくて、決して自分は実行犯にならず、授業中に騒ぎそうな子をたきつけては学級崩壊するように働きかけたりもしていました。私が『なんでそういうことをするの?』と尋ねてみると、児童は『塾で勉強しているから授業を聞く必要がないし、学校の授業を壊しちゃえばみんなが勉強できなくなって(相対的に)自分の評価が上がるから』と応えました」

前近代的な学校スタンダード 抑圧に耐える児童と教員

 もっとも、「よい子」を振る舞っている児童全員が、前出のケースのような“裏で糸を引く主犯格”タイプというわけではない。ほとんどの児童は別な傾向があるようだ。

「『よい子』を振る舞う児童は、わからないことを素直に『わからない』と言えないという特徴があります。なぜなら、もしそんなことを口にしたら、前述したようなリーダー格の児童から『なんだお前、そんなこともわからないのか』とばかにされ、学級内でのヒエラルキーが落ちてしまうからです。また、授業中に先生が児童に『これについて君はどう思う?』と尋ねても、ほとんど誰も返事をしてくれないケースもあります。その理由は、万が一変な回答を言ってしまってばかにされたくないということと、仮に正解を言ってしまうと今度は『調子に乗るな』とやっかまれてしまう。児童たちの多くは、自分の発言が周りにどう受け止められるか常に思慮をめぐらしているようです」

 こうした児童が増えている原因として、一つには「学校スタンダード」が昔より強化されていることがあるという。学校スタンダードとは、児童に対して授業を受ける際の望ましい姿勢や、持ち物の規定などを詳細に決めたルールのことだ。

「学校スタンダードは、たとえば体育館や校庭では無言で列に並ぶ、掃除の時間には教室の窓を開ける、廊下の踊り場で遊ばないなど事細かく決められています。ある小学校では、職員室から校長室までの間の廊下は『サイレント通り』と名付けられ、休み時間であっても私語厳禁という謎ルールもあります。本来、休み時間中におしゃべりするのは別に普通のことですが、もししゃべっている児童がいたら先生に『サイレント通りでは静かにしなさい!』と怒られ、その子たちの担任の先生も校長や副校長に『児童をしっかり管理しなさい』と指導されます。学校という組織は保護者やマスコミなどから常に監視されているため、保守的な考え方に染まりやすく、担任は児童がどれだけ学校スタンダードを順守しているかで評価されてしまうのです」

 そのため、ほとんどの教員は学校スタンダードに従わざるを得ず、その影響は児童にも暗い影を落としている。

「学校スタンダードによって児童は自分で物事を考える力をそがれています。ルールを逸脱して罰を受けるのが嫌、先生に叱られるのが嫌という理由だけで、他者の痛みや思いやりの気持ち、物事への納得感なども得ないままに、ただ従順に育ってしまう。こうしたダークペダゴジー(強制や賞罰などを用いた教育行為)を受け、従順さを求められながらも“創造性”が必要だと矛盾したことを言われたり、小学生の段階から“将来の夢”を持つようにとプレッシャーをかけられる。その結果、どんどんストレスがたまっていき、『よい子』を振る舞いつつも、いじめなどの問題行動に走ってしまうのでしょう」

 現在は学校スタンダードを徐々になくしていこうとする風潮もあるが、それによって再び学級崩壊が起こるリスクを懸念する声もある。あるいは、学校スタンダードがあるから校内の秩序が保たれているという言説も根強いため、抜本的な改革には至っていないのだ。

親が与える条件付きの愛と自己責任論がいじめを加速

 しかし、児童の問題の原因を学校教育だけに求めてしまうのも早計だ。子どもの人格形成には「親」からの影響が大きく関係している。

「『よい子』を振る舞う児童は自己肯定感が低いという傾向があります。たとえば、冒頭で紹介した首都圏の小学校(特別支援学級のいじめのケース)は、地域柄会社役員や弁護士、医師などいわゆるインテリ層の子どもが多く通っていました。そういう家庭環境で育った児童は、親御さんから常に『勉強しなさい』と言われ続け、『“勉強ができる”○○ちゃんだから好き』という条件付きの愛を受けて育てられるケースも多い。しかし、子どもにとってその愛は、『もし勉強ができなくなったら親から嫌われてしまう…』という見捨てられ不安をもたらし、自己肯定感を低下させてしまう。そうした自己肯定感の低さを満たすために、自分より下の人間を見つけていじめようとしたり、自分がいじめられないように過剰に自己防衛したりするのだと考えられます」

 前出のアンケート結果によれば、「学校でいじめが広がっていると思うか?」という問いに「そう思う」「ややそう思う」と応えた教員は、1998年は7.9%だったが、2019年は17.7%と、10ポイント近くも増加しているのだ。

 また、一部の親が子どもに押し付ける自己責任論の問題もある。

「いまの児童たちの間では自己責任論が広まっているように思えます。たとえば、勉強ができないのは自己責任、自分以外の誰かがいじめられるのは自己責任、ハンディを背負っているのも自己責任というような考え方です。そういう子は、家庭でも親御さんから『勉強を頑張らない子は社会で落ちこぼれる』『いまの頑張り次第で今後の人生が決まっていく』など自己責任論を教育されているようです。中には、そうした自己責任論を主張する一方で、他責思考というダブルスタンダードの親御さんもいます。前出の市立小学校の主犯児童の親御さんに『お子さんが学校の4階のトイレから物を落としまして…』と事件の話を報告したときも、『悪いのはうちの子だけですか?』と他責にしようとする発言もありました」

 増田教授は、これからの学校教育に必要なのは「柔らかい学級作り」と「裏情報の把握」だと語る。

「柔らかい学級作りの一環として、まず私は幼稚園や保育園、小学校などで『ともだち100人できるかな♪』(曲名『一年生になったら』)と、歌うのはやめましょうと提唱しています。なぜなら、友達100人なんて別にできなくたっていいし、そもそもできるわけがない。大人が小学生時代にできもしなかったことを一方的に子どもに求めるのは酷というもの。それに、児童をひと所に無理に集めようとすると、そこからはみ出した子がスケープゴートにされてしまうリスクもあります。そして、いじめ問題の解決のためには裏情報の把握も必須。いまの児童たちはLINEなどを使って裏でつながっているため、教員は情報量で圧倒的に子どもたちに負けています。親御さんとも連携して、児童の裏側の情報をきちんと把握することがなによりも大切です」

 子どもは大人と社会を映す鏡。水面下で他者を言葉巧みに操り、追い詰める児童がいたとしても、その子もまた被害者の一人であることは言うまでもない。
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参考URL
https://www.msn.com/ja-jp/news/national/%E3%82%88%E3%81%84%E5%AD%90-%E3%82%92%E6%8C%AF%E3%82%8B%E8%88%9E%E3%81%86%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E5%B0%8F%E5%AD%A6%E7%94%9F%E3%81%8C%E6%80%A5%E5%A2%97%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%83%AF%E3%82%B1/ar-BB1a8fLF?ocid=msedgdhp

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