沖縄における基地建設反対運動に多くの注目が集まる一方、一部のメディアでは「反対運動に日当」「取材すると襲撃される」「反対運動の黒幕は外国勢力」などと言った無根拠なデマや憶測が、さも事実であるかのように報道されていることが明らかとなりました。
沖縄の米軍基地問題に関しては、情報の正確性を精査し、根拠に乏しい憶測を事実であるかのように喧伝したり、デマ情報を拡散させたりしないよう注意しましょう。
―――――――――――――――――――
「反対運動に日当」「黒幕は外国勢力」沖縄をめぐる悪質なデマと差別の底にあるもの
AERA dot.
2021/03/17 08:02
保守系論壇やネット言論から「偏っている」と批判される「琉球新報」「沖縄タイムス」の記者たちを徹底的に取材した、ジャーナリスト・安田浩一の『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』(朝日文庫)。偏見・無関心・冷淡さ……沖縄に向けられる「本土」からの視線に、安田は何を思ったのか。(敬称略、「文庫版あとがき」の一部を抜粋・改編)
* * *
2017年1月2日、東京のローカル局、東京メトロポリタンテレビジョン(MXテレビ)が情報番組「ニュース女子」で沖縄の基地問題を取り上げた。
取材陣が沖縄に飛び、新基地建設反対運動の「現場」を見て回ったとするものだが、主張も内容も、とても「報道」とは呼ぶことのできない悪質なデマ番組だった。
そもそも取材らしい取材はほとんどされていない。「徹底取材」と銘打ちながら、実際は物見遊山さながら街中を車で流すだけで、基地建設反対運動がいかに「怖い」ものであるのか、といったイメージ操作だけに時間を費やすものだった。
そのうえで「反対運動に日当」「取材すると襲撃される」「反対運動の黒幕は外国勢力」――といった手垢のついたデマや憶測が何の根拠もなしに報じられた。
結局、同番組が描きたかったのは「外国勢力と暴力に支配された沖縄」という歪み切った絵なのであろう。
バカバカしいにもほどがある。圧倒的な国家の暴力、あるいは右翼や差別者集団のヘイト攻撃によって被害を受けているのは、市民の側ではないか。
辺野古の現場では、機動隊員に組み伏せられ、締めあげられ、ごぼう抜きされる市民の姿を何度も目にしてきた。また、右翼や差別者集団による“襲撃”も珍しくはない。
街宣車で乗り付け、集団で反対派のテントに乱入し、そこにいた市民を殴って逮捕されたのは地元右翼団体のメンバーだ。この右翼団体の幹部にも話を聞いたが、「ぶつかりあうのは仕方ない」と開き直るばかりだった。そもそも辺野古で座り込む市民は右翼団体と「ぶつかりあう」ために集まっているわけではない。一方的に「ぶつかりあい」を仕掛けているのは右翼団体の側である。
また、私は差別者集団・在特会の元会長、桜井誠が率いる日本第一党のメンバー約30名による“辺野古襲撃”の現場に居合わせたこともある。
17年の冬だった。
メンバーらは辺野古で座り込む市民に対し「じじい、ばばあ」「くさい」などと罵声を飛ばし、威嚇した。
取材中の私に「安田は出ていけ」などとはやし立てるのは一向にかまわない。だが、無抵抗で座り込む高齢の市民に悪罵をぶつける態度はチンピラ以下だ(街のチンピラだって、そこまではしない)。
差別者集団はこうしたことを幾度も繰り返している。旭日旗を振り回しながら市民に向けて「非国民」「売国奴」「無法者」と絶叫し、「ここにいるやつらを撃ち殺せ」と殺戮を煽る。「無法者」はいったいどちらなのか。
「暴力の被害」を訴えたいのは、むしろ一方的に罵られる側の市民たちであろう。
このようにデマ屋と差別者が車の両輪よろしく沖縄を蹂躙している。
ちなみに前述した「ニュース女子」の放映から1カ月後の2月24日、日本プレスセンター(東京都千代田区)において、「辛淑玉氏等による東京MXテレビ『ニュース女子』報道弾圧に抗議する沖縄県民東京記者会見」がおこなわれた。名称が示す通り、これは番組内容が人権侵害だとしてBPOに申し立てした辛淑玉(番組でも運動の黒幕として名指しで批判されている)に抗議し、さらには一連の番組批判を「報道弾圧」だと訴えるものだった。
会見に出席したのは「琉球新報、沖縄タイムスを正す県民・国民の会」代表運営委員の我那覇真子、「沖縄教育オンブズマン協会」会長の手登根安則、「カナンファーム」代表の依田啓示ら沖縄県民と、衆院議員の杉田水脈、カリフォルニア州弁護士のケント・ギルバートの5人(肩書はそれぞれ主催者が発表したもの)。沖縄県民3人は、いずれも「ニュース女子」の沖縄ロケで番組側に協力、インタビューに答えた人たちだ。なお、司会進行は『沖縄の不都合な真実』(新潮新書)の著者で、評論家の篠原章が務めた。
記者会見と言いながら、私と、そして私と一緒にネット番組『NO HATE TV』の進行役を務めているフリー編集者の野間易通の二人は、一切の質問を禁じられた。
その代わり、聞くに堪えない彼ら彼女らの主張を一方的に聞かされることになる。
「高江に常駐する約100名程度の活動家のうち、約30名が在日朝鮮人だと言われている」(我那覇)
「日本の安全保障にかかわる米軍施設への妨害、撤去を、外国人たる在日朝鮮人が過激に行うことが、果たして認められるものなのか」(同)
「運動の背景に北朝鮮指導部の思想が絡んでいるとすれば重大な主権侵害に当たる」
「在日朝鮮人たる辛淑玉氏に愚弄される謂れがどこにあろうか」(同)
「沖縄の基地反対運動のバックに中国が暗躍している」(杉田)
「大阪のあいりん地区の日雇い労働者をリクルートして沖縄に送り込んでいる」(同)
「反対運動に資金を出してるのは中国」(ギルバート)
呆れるしかなかった。いや、その無根拠な思い込みとデマ宣伝に怒りが込み上げてきた。そしてあらためて確信した。
沖縄への差別と、マイノリティー差別は地続きであることを。
何の段差もなく、ひとつにつながっている。こうして言論が歪められる。沖縄が歪められる。
もうひとつ、沖縄に向けられた偏見について言及したい。
それは16年10月のことだった。高江の米軍ヘリパッド建設工事に反対する市民に向けて、大阪から派遣された機動隊員が「土人」と暴言(というよりもヘイト発言)を放つ“事件”が起きた。
このとき、私はたまたま那覇に滞在していたこともあり、某テレビ局の情報番組でコメントを求められた。
私は1903年の「人類館事件」(※大阪内国勧業博覧会にて、沖縄県民をはじめ世界の少数民族が「土人」として見世物にされた事件)などを事例に引き出したうえで、「土人発言」は紛れもなくヘイトスピーチであり、これは偶発的なものではなく、日本社会の沖縄に対する差別と偏見が引き起こしたものであると話した。
だが、スタジオの反応は冷淡だった。出演中の「識者」(いずれもメディア関係者)からはこんな言葉が返ってきた。
「沖縄差別というのは間違いですよ。本土の人は沖縄を好きな人が多い。いまどき、差別なんてありません」
この言葉に反応したのは私ひとりだった。
いくぶんムキになって反論したが、短い時間の中では、おそらく十分に私の思いなど伝わっていないだろう。
差別者が差別を自覚することはない。出演した私が得たのは、その確信だけだった。
沖縄の新聞を取材する過程で沖縄の歴史と接し、少しは人々の思いに触れ、同時に「本土」の無関心と偏見、メディアの冷淡さも知ることができた。
だから私も立ち続けようと思う。いつまでも、この場所にいようと思う。
それは沖縄のためじゃない。沖縄に寄り添って、沖縄から好かれるためでもない。
私が生きている社会を変えるためだ。差別と偏見がぶつけられる沖縄の姿は、日本社会の歪みやねじれでもある。だから私は、ここから離れない。
―――――――――――――――――――
参考URL
https://www.msn.com/ja-jp/news/national/%E5%8F%8D%E5%AF%BE%E9%81%8B%E5%8B%95%E3%81%AB%E6%97%A5%E5%BD%93-%E9%BB%92%E5%B9%95%E3%81%AF%E5%A4%96%E5%9B%BD%E5%8B%A2%E5%8A%9B-%E6%B2%96%E7%B8%84%E3%82%92%E3%82%81%E3%81%90%E3%82%8B%E6%82%AA%E8%B3%AA%E3%81%AA%E3%83%87%E3%83%9E%E3%81%A8%E5%B7%AE%E5%88%A5%E3%81%AE%E5%BA%95%E3%81%AB%E3%81%82%E3%82%8B%E3%82%82%E3%81%AE/ar-BB1eEHMH?ocid=msedgdhp
沖縄の米軍基地問題に関しては、情報の正確性を精査し、根拠に乏しい憶測を事実であるかのように喧伝したり、デマ情報を拡散させたりしないよう注意しましょう。
―――――――――――――――――――
「反対運動に日当」「黒幕は外国勢力」沖縄をめぐる悪質なデマと差別の底にあるもの
AERA dot.
2021/03/17 08:02
保守系論壇やネット言論から「偏っている」と批判される「琉球新報」「沖縄タイムス」の記者たちを徹底的に取材した、ジャーナリスト・安田浩一の『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』(朝日文庫)。偏見・無関心・冷淡さ……沖縄に向けられる「本土」からの視線に、安田は何を思ったのか。(敬称略、「文庫版あとがき」の一部を抜粋・改編)
* * *
2017年1月2日、東京のローカル局、東京メトロポリタンテレビジョン(MXテレビ)が情報番組「ニュース女子」で沖縄の基地問題を取り上げた。
取材陣が沖縄に飛び、新基地建設反対運動の「現場」を見て回ったとするものだが、主張も内容も、とても「報道」とは呼ぶことのできない悪質なデマ番組だった。
そもそも取材らしい取材はほとんどされていない。「徹底取材」と銘打ちながら、実際は物見遊山さながら街中を車で流すだけで、基地建設反対運動がいかに「怖い」ものであるのか、といったイメージ操作だけに時間を費やすものだった。
そのうえで「反対運動に日当」「取材すると襲撃される」「反対運動の黒幕は外国勢力」――といった手垢のついたデマや憶測が何の根拠もなしに報じられた。
結局、同番組が描きたかったのは「外国勢力と暴力に支配された沖縄」という歪み切った絵なのであろう。
バカバカしいにもほどがある。圧倒的な国家の暴力、あるいは右翼や差別者集団のヘイト攻撃によって被害を受けているのは、市民の側ではないか。
辺野古の現場では、機動隊員に組み伏せられ、締めあげられ、ごぼう抜きされる市民の姿を何度も目にしてきた。また、右翼や差別者集団による“襲撃”も珍しくはない。
街宣車で乗り付け、集団で反対派のテントに乱入し、そこにいた市民を殴って逮捕されたのは地元右翼団体のメンバーだ。この右翼団体の幹部にも話を聞いたが、「ぶつかりあうのは仕方ない」と開き直るばかりだった。そもそも辺野古で座り込む市民は右翼団体と「ぶつかりあう」ために集まっているわけではない。一方的に「ぶつかりあい」を仕掛けているのは右翼団体の側である。
また、私は差別者集団・在特会の元会長、桜井誠が率いる日本第一党のメンバー約30名による“辺野古襲撃”の現場に居合わせたこともある。
17年の冬だった。
メンバーらは辺野古で座り込む市民に対し「じじい、ばばあ」「くさい」などと罵声を飛ばし、威嚇した。
取材中の私に「安田は出ていけ」などとはやし立てるのは一向にかまわない。だが、無抵抗で座り込む高齢の市民に悪罵をぶつける態度はチンピラ以下だ(街のチンピラだって、そこまではしない)。
差別者集団はこうしたことを幾度も繰り返している。旭日旗を振り回しながら市民に向けて「非国民」「売国奴」「無法者」と絶叫し、「ここにいるやつらを撃ち殺せ」と殺戮を煽る。「無法者」はいったいどちらなのか。
「暴力の被害」を訴えたいのは、むしろ一方的に罵られる側の市民たちであろう。
このようにデマ屋と差別者が車の両輪よろしく沖縄を蹂躙している。
ちなみに前述した「ニュース女子」の放映から1カ月後の2月24日、日本プレスセンター(東京都千代田区)において、「辛淑玉氏等による東京MXテレビ『ニュース女子』報道弾圧に抗議する沖縄県民東京記者会見」がおこなわれた。名称が示す通り、これは番組内容が人権侵害だとしてBPOに申し立てした辛淑玉(番組でも運動の黒幕として名指しで批判されている)に抗議し、さらには一連の番組批判を「報道弾圧」だと訴えるものだった。
会見に出席したのは「琉球新報、沖縄タイムスを正す県民・国民の会」代表運営委員の我那覇真子、「沖縄教育オンブズマン協会」会長の手登根安則、「カナンファーム」代表の依田啓示ら沖縄県民と、衆院議員の杉田水脈、カリフォルニア州弁護士のケント・ギルバートの5人(肩書はそれぞれ主催者が発表したもの)。沖縄県民3人は、いずれも「ニュース女子」の沖縄ロケで番組側に協力、インタビューに答えた人たちだ。なお、司会進行は『沖縄の不都合な真実』(新潮新書)の著者で、評論家の篠原章が務めた。
記者会見と言いながら、私と、そして私と一緒にネット番組『NO HATE TV』の進行役を務めているフリー編集者の野間易通の二人は、一切の質問を禁じられた。
その代わり、聞くに堪えない彼ら彼女らの主張を一方的に聞かされることになる。
「高江に常駐する約100名程度の活動家のうち、約30名が在日朝鮮人だと言われている」(我那覇)
「日本の安全保障にかかわる米軍施設への妨害、撤去を、外国人たる在日朝鮮人が過激に行うことが、果たして認められるものなのか」(同)
「運動の背景に北朝鮮指導部の思想が絡んでいるとすれば重大な主権侵害に当たる」
「在日朝鮮人たる辛淑玉氏に愚弄される謂れがどこにあろうか」(同)
「沖縄の基地反対運動のバックに中国が暗躍している」(杉田)
「大阪のあいりん地区の日雇い労働者をリクルートして沖縄に送り込んでいる」(同)
「反対運動に資金を出してるのは中国」(ギルバート)
呆れるしかなかった。いや、その無根拠な思い込みとデマ宣伝に怒りが込み上げてきた。そしてあらためて確信した。
沖縄への差別と、マイノリティー差別は地続きであることを。
何の段差もなく、ひとつにつながっている。こうして言論が歪められる。沖縄が歪められる。
もうひとつ、沖縄に向けられた偏見について言及したい。
それは16年10月のことだった。高江の米軍ヘリパッド建設工事に反対する市民に向けて、大阪から派遣された機動隊員が「土人」と暴言(というよりもヘイト発言)を放つ“事件”が起きた。
このとき、私はたまたま那覇に滞在していたこともあり、某テレビ局の情報番組でコメントを求められた。
私は1903年の「人類館事件」(※大阪内国勧業博覧会にて、沖縄県民をはじめ世界の少数民族が「土人」として見世物にされた事件)などを事例に引き出したうえで、「土人発言」は紛れもなくヘイトスピーチであり、これは偶発的なものではなく、日本社会の沖縄に対する差別と偏見が引き起こしたものであると話した。
だが、スタジオの反応は冷淡だった。出演中の「識者」(いずれもメディア関係者)からはこんな言葉が返ってきた。
「沖縄差別というのは間違いですよ。本土の人は沖縄を好きな人が多い。いまどき、差別なんてありません」
この言葉に反応したのは私ひとりだった。
いくぶんムキになって反論したが、短い時間の中では、おそらく十分に私の思いなど伝わっていないだろう。
差別者が差別を自覚することはない。出演した私が得たのは、その確信だけだった。
沖縄の新聞を取材する過程で沖縄の歴史と接し、少しは人々の思いに触れ、同時に「本土」の無関心と偏見、メディアの冷淡さも知ることができた。
だから私も立ち続けようと思う。いつまでも、この場所にいようと思う。
それは沖縄のためじゃない。沖縄に寄り添って、沖縄から好かれるためでもない。
私が生きている社会を変えるためだ。差別と偏見がぶつけられる沖縄の姿は、日本社会の歪みやねじれでもある。だから私は、ここから離れない。
―――――――――――――――――――
参考URL
https://www.msn.com/ja-jp/news/national/%E5%8F%8D%E5%AF%BE%E9%81%8B%E5%8B%95%E3%81%AB%E6%97%A5%E5%BD%93-%E9%BB%92%E5%B9%95%E3%81%AF%E5%A4%96%E5%9B%BD%E5%8B%A2%E5%8A%9B-%E6%B2%96%E7%B8%84%E3%82%92%E3%82%81%E3%81%90%E3%82%8B%E6%82%AA%E8%B3%AA%E3%81%AA%E3%83%87%E3%83%9E%E3%81%A8%E5%B7%AE%E5%88%A5%E3%81%AE%E5%BA%95%E3%81%AB%E3%81%82%E3%82%8B%E3%82%82%E3%81%AE/ar-BB1eEHMH?ocid=msedgdhp
コメント
コメントを投稿