「ゲームは人を暴力的にする」は本当か?実験でわかった「驚きの結果」 『はじめて学ぶ ビデオゲームの心理学』

成人の参加者に2か月間、2種類のビデオゲームをプレイしてもらい、攻撃性、衝動性、気分、不安、共感、対人関係能力、実行機能の測定値への影響を調べる研究が2019年に行われました。

一部の参加者には、犯罪行為も自由にできる「グランド・セフト・オート」(GTA)を2ヶ月間プレイしてもらい、その他の参加者は、ライフシミュレーションゲーム「ザ・シムズ3」をプレイする群、又は何のゲームもしない群に振り分けました。

そして、全ての参加者達を2ヶ月のゲームプレイの前後にテストし、2ヶ月後に追跡調査をした結果、暴力的なビデオゲームをしたことによる負の影響は確認されませんでした。

「グランド・セフト・オート」(GTA)のように犯罪も自由に出来る暴力的なゲームをプレイしても、人が暴力的になったり、犯罪に駆り立てられることはありません。

むしろ、ゲームプレイには良い面があり、例えばアクションゲームをプレイする成人や就学年齢の子どもの視空間知覚と注意能力には正の相関があります。

「コールオブデューティ」をはじめとしたFPSを上手くプレイするには、視覚的能力が要求されることから、アクションゲーマーはゲームをしない人に比べて視覚的注意能力が高いことが研究から示されています。

また、特定のゲームが一部の視機能、認知機能向上を示唆する研究もあります。

読み書きが苦手な発達性ディスレクシアの子どもを対象にWiiの「ラビッツ・パーティ」を1人につき合計12時間トレーニングして読みの能力を調べた結果、対照群よりも視覚的注意能力と読字速度が向上し、この効果は2ヶ月後も持続していました。

学習効果がもっとも高くなるのは、子ども自身が熱心に取り組み楽しんでいる時であるということも明らかとなっています。

ゲームにおけるネガティブな効果は希薄であり、むしろポジティブな効果が多くあります。

いつか、社会におけるゲームに対する偏見が減り、教育手段としてゲームが広く利用される時代が到来するかもしれません。


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「ゲームは人を暴力的にする」は本当か?実験でわかった「驚きの結果」 『はじめて学ぶ ビデオゲームの心理学』

現代ビジネス

飯田 一史 の意見 - 15 時間前


『アサシン クリード』『Fortnite』など多くのゲームのユーザー体験(UX)向上に携わったゲーム開発コンサルタントで心理学博士のセリア・ホデントが著した『はじめて学ぶ ビデオゲームの心理学』(福村出版)は、心理学の知見を援用しながらゲーム特有のユーザー体験(ゲームUX)とは何かを教えてくれる。

心理学を使ってユーザーをハメてしまえ…という話ではない

今では大型ゲームの開発に様々な専門家が携わっている。心理学も重要分野のひとつだ。……こう聞くと「人間心理をハックしてユーザーをハマらせ、重課金させるために心理学が悪用されている」と勘違いする人もいるかもしれない。セリア・ホデントは、むしろゲームUXの設計に際して倫理的であることを求めている。

たとえばビデオゲーム制作で考慮すべきUXとして、以下のようなものを挙げる。


・ダークパターン
これはビジネス目標(儲けること、人を集めること)が人間より優先されるときに現れる、人を欺くために作られたデザインである。無自覚なユーザーに、自分の損になる行動をとらせて会社の利益を増やそうとするデザインで、望ましくない。ガチャ(ルートボックス)もダークパターンである。

・アテンションエコノミー
少しだけのつもりがずっと見続けさせるようなしかけや、熱中させ続けるようなしかけのことである。

・ゲームのコンテンツ
映像メディアは特定集団に対するユーザーの態度、考え、先入観に影響を及ぼす可能性があり、人々が持つステレオタイプや行動に影響する。たとえばイスラム教徒が敵キャラにされているゲームなどがその悪い例である。


ダークパターンやアテンションエコノミーについて諫め、ステレオタイプ助長に与しないよう注意すべきだと訴える。ゲームをおもしろくすることに学問的知見を役立てるのはいいが、人々を不健康にしたり、浪費させたりすることには用いるべきではない。一貫してこのスタンスを取っている。

いやいや、そんなこと言っても『アサシン クリード』は名前の通り暗殺教団のゲームじゃないか、プレイヤーを暴力的にすることにつながっているじゃないか、と思うかもしれない。

これに対しては、2019年の研究を反証として挙げている。

成人の参加者に2か月間、2種類のビデオゲームをプレイしてもらい、攻撃性、衝動性、気分、不安、共感、対人関係能力、実行機能の測定値への影響を調べた。一部は犯罪行為も自由にできる『グランド・セフト・オート』(GTA)を2ヶ月にわたってプレイしてもらい、そのほかの参加者は、ライフシミュレーションゲーム『ザ・シムズ3』をプレイする群か、またはなんのゲームもしない群に振り分けた。これらの人たちを2ヶ月のゲームプレイの前後にテストし、2ヶ月後に追跡調査をした。結果、暴力的なビデオゲームをしたことによる負の影響は確認されなかった。『GTA』ですら人を暴力的にするとか、犯罪に駆り立てるといった事実はない、ということだ。

ゲームプレイには、良い面もあると言えそうな実験結果も紹介している。

たとえば、アクションゲームをプレイする成人や就学年齢の子どもの視空間知覚と注意能力には正の相関があるという。『コールオブデューティ』のようなFPSをうまくやるには、視覚的能力が要求されることから、アクションゲーマーはゲームをしない人に比べて視覚的注意能力が高いことが研究から示されている。もっとも、プレイしたから向上したのか、もともとこれらの能力がアクションゲームを好んでやっているかはあくまで「相関」にすぎないから不明ではある。

ほかにも、特定のゲームが一部の視機能、認知機能向上を示唆する研究もある。読み書きが苦手な発達性ディスレクシアの子どもを対象にWiiの『ラビッツ・パーティ』をひとりにつき合計12時間トレーニングして読みの能力を調べた。結果、対照群よりも視覚的注意能力と読字速度が向上。この効果は2ヶ月後でも持続していた。学習効果がもっとも高くなるのは、子ども自身が熱心に取り組み楽しんでいるときだということもわかっている。

ゲームにネガティブな効果は希薄で、ポジティブな効果があると予想されるからこそ、社会的に受け入れがたい表象やUXは避けるべきなのだ。


ゲームのUXはほかのUXと何が違うか

ではゲームユーザー体験(ゲームUX)は、ほかの製品のユーザー体験とは一体何が違うのか。

どんなことを目指せばいいのか。

ゲームはほとんどの場合、何かを達成するための「ツール」ではなく、「プレイ」自体が目的であることが特徴だ。ほかの製品の場合は「使いやすい」「やりやすい」ことが重要だが、ゲームはストレスなくスムーズにできるだけでなく、遊んで楽しいことが欠かせない。

ゲームのやりやすさ(ユーザビリティ)に加えて、ゲームが人を魅了する力(エンゲージメント)が必要になる。

だから、ゲーム以外のサービスのUXとは異なり、むしろ適度な負荷をプレイヤーにかけることすら求められる。プレイヤーの身体的・精神的なスキルに対する挑戦、知覚に対する挑戦、感情を揺さぶる展開などを含むものが好まれる。

セリア・ホデントは、もっとも重要なことは、どんな体験を提供し、誰をターゲット層のユーザーとするかを正確に定義することだ、と言う。このあたりは心理学というより、マーケティングの基本と言える。

たとえば『Fortnite』なら建築、アイテム作成、戦闘が主な柱になる。プレイヤーにどんな挑戦をしかけるかを決める必要もあるが、『Fortnite』はプレイヤーに注意力、反射神経、チームメイトとの協力、戦略的思考を求めているという(もちろん、何を求めるかはゲームにより、ターゲット層により異なる)。

誰にどんな体験を提供したいのかを定めたら、そこからブレークダウンしてUXを設計していく。ここでは先ほど挙げた2つが評価軸になる。ひとつはユーザーがゲームをどのくらい十分にプレイできるかを表す度合いである「ユーザビリティ」。もうひとつはユーザーを惹きつけ、没頭させる力である「エンゲージアビリティ」だ。

しかし、どうやってそれらが達成できているかを検証するのか。これには2つの方法がある。

ひとつは「UXリサーチャー」を使うことだ。科学的手法を使って仮説を立て、実験を設計し、人間のバイアスを排除しつつデータ収集・分析をするために、プレイテストを使う。ターゲット層を代表する8人ほどのユーザーにUX実験室に来てもらい、ゲーム内に存在する問題を見つけるテストに参加してもらうのである。ここに心理学者として訓練を積んだ人間だからこそ可能な、科学的に妥当な実験の設計や解釈が求められる。

もうひとつの手法は「アナリティクス」(分析)。遠隔測定できるデータを収集し、解釈する。DAU(日次のアクティブユーザー)や維持率、離脱率、コンバージョン数などを割り出す。これによって「プレイヤーはどこでやられているか」「どこかで行き詰まっていないか」「ゲームバランスは適正か」などに対する答えを探す。この手法はUXチーム以外にも、ビジネスの意思決定をサポートするビジネスインテリジェンスチームにもよく使われているが、あくまで心理学者/UXの専門家としての観点からチェックする。


日本の問題

『ビデオゲームの心理学』を読んでわかるのは、大人数が関わるゲーム制作だからこそ、誰にでもわかるように明確に議論に用いる用語を定義し、UX設計やチェックのフレームワーク、ワークフローが整備されている(整備するべき)、ということだ。

訓練を積みさえすれば、心理学の専門家が適切にゲーム開発に協力できるだろうことが想像できるし、ゲーム制作者側もこのメソッドに沿って適切なテストをしてくれる専門家を探せばいいのだろうと予想が付く。

ところが日本国内には、ビデオゲームについての心理学の専門家養成プログラムがない。

日本のゲームメーカーが同様のことをしたい場合、海外からセリア・ホデントのような人を招くか、ゲームに関係しそうな専門分野の心理学者にオファーして協力してもらうかしかない。

ゲーム制作者やゲームメディアの人間がこの本に書かれたような知見を自ら学んで仕事に活かすことも重要だが、専門家である心理学のドクター人材の活用ができるプログラムづくりが、今の世界で求められるレベルのゲームづくり――それには社会との摩擦を避け、軽減するための倫理的な配慮も含まれる――につながるはずだ。
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