合意後の心変わりの対策として最も効果的なのは、「相手の決断をほめ称える」ことです。
合意に至った相手の決断を肯定し、正当であったと見なせる理由も合わせて伝えると、より効果的です。
逆に、こちらが決断したことに対して、関係性の浅い相手がやたらとほめてきたり、正当化を促す理由となるような発言をまくし立ててきたりしたら、注意が必要です。
決断した後は相手のほめ言葉に乗せられないようにしつつ、「裏があるかもしれない」と疑ってみましょう。
決断しても、合意前であれば、相手が提示してきた条件を再度洗い直し、合意を見送ることが出来ます。
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頭のいい人の極意!相手に「やっぱりやめた」と言わせないテクニックとは
ダイヤモンド・オンライン
犬塚壮志 によるストーリー • 金曜日
内定者から辞退される、一度購入すると決めたものをキャンセルされる……ビジネスにおいて、一度合意に至った件を「やっぱりやめた」と心変わりされるのは非常につらいものです。心変わりを防ぐためのとっておきのテクニックを、書籍『頭のいい人の対人関係 誰とでも対等な関係を築く交渉術』の著者が、そのテクニックを紹介します。(教育コンテンツプロデューサー/株式会社士教育代表取締役 犬塚壮志)
いったん合意したことを覆されると、受け手のダメージは大きい
あなたは、互いに話し合って合意したことを、あとから覆されて悔しい思いをしたことはありませんか? 上司と会議で議論していったん取り決めたことなのに、どこかから横やりが入ったのか「やっぱり、あれ、やめようか。もう少し様子を見よう」などと言われ、怒りを通り越して呆れてしまった……というような経験です。
あるいは、あなたが自社の新規採用担当者だったとしましょう。内定を出したあと、最も気を配るべきことは、内定者からの辞退を避けることです。これは企業の人事の方から直接聞いた話ですが、社員ひとりを採用するには数百万円のコストがかかっています。コスト面だけでなく、社員数の担保や配属先の調整にも大きな影響が出てしまいます。そのため、採用担当者は内定を出した後、その内定者の辞退をいかに防ぐかに注力します。にもかかわらず、内定を出した後に心変わりして辞退されてしまうと、大打撃です。
同じように、商品の購入後の返品、サービスやイベントの申し込み後のキャンセルなど、合意後の心変わりというのは、売り手側からすると落胆させられますよね。だからこそ、一度合意に至ったあとも油断ぜず、その合意を取り下げられないような工夫が必要です。
実際、ビジネス上の心変わりには、私も何度も苦い経験をしてきました。
会社名という看板がなくなり、OKのはずの提案が覆される
私は有名予備校の講師をしていたのですが、30代半ば過ぎで独立し、教育事業を行う会社を立ち上げました。当初は講師時代の経験から生まれたアイデアを実現していくことで、ある程度スムーズにビジネス化が進んでいくと考えていたのです。
ところが、会社(予備校)の看板がなくなると、最初は「面白いね」と言ってもらえていたアイデアの評価が落ちていくのを如実に感じました。内容は変わらないのに、看板という信用の裏付けがなくなかったからだと気づいたとき、自分の立場の弱さを痛感したのです。
打ち合わせやメールで「OK」の返事をもらったクライアントから、契約書で締結する段階になって、「改めて考えたのですが、やはり今回は契約を見送ることにさせてください」と一言メッセージがあり、それっきり……ということを何度も経験しました。
もちろん、私自身にも至らなかった点があったのだとは思います。しかし、一度は「OK」がもらえるということは、アイデアやプランに魅力がないわけではないはずです。
もともとのアイデアが悪くないのだとすると、こうした交渉事をどのように進めれば相手からのキャンセルを防ぐことができるのか……。私は好奇心と必要性に駆られて、交渉学を学び始めました。交渉に関わる古今東西の文献を1000本以上読破し、その対策を探ったのです。
合意後の心変わりを防ぐ最も有効な手は「ほめ称える」
結論から言うと、合意後の心変わりの対策として最も効果的なのは、「相手の決断をほめ称える」でした。
というのも、私たちには自分の意思決定が正しいものだと思いたい「自己正当化」の欲求があるからです。この自己正当化の欲求は「認知的不協和」から逃れようとする、人の本能の一種です。認知的不協和とは、「人間が自己の決定に対して不安を感じ、自己維持のために自己正当化行動を生起させること」。なんだか難しい言い回しですが、ざっくりいうと、こうなります。
・私たちは自分の中に矛盾した意見や考えを同時に持つことがある
↓
・その矛盾に気付くと、モヤモヤして落ち着かなくなる
↓
・落ち着かない状態はイヤ、不快
↓
・モヤモヤ感を解消するため、自分の考えを強引に歪めたり、本心とは異なった行動を取ってしまったりすることがある
相手の中に生まれた、この「認知的不協和」をそのまま野放しにしておくと、不安が高まり、なんとか解消したいという方向にシフトしてしまいます(Blanton,2009)。つまり、一度合意した内容に「もしかして判断が早急だった?」「もっと別の案も検討するべき?」といったモヤモヤが生じると、相手は合意を破棄しようと動き出してしまうのです。
この心の動きを防ぐために有効なのは、あなたが、合意に至った相手の決断を肯定してあげることです。
「すばらしい決断をされましたね」
「勇気のある判断です」
「この合意で私たちの関係性はより良いものになります」
こうしたニュアンスを伝えることで、一度なされた合意を覆されにくくすることができます。これは相手に、「後付けでもいいから、自分を正当化してくれる理由が欲しい」という欲求が生じているからです。
たとえば、高価な商品を購入した人は「こんな高い値段の商品を買ってしまって、本当に大丈夫だったのかしら……」と、自分の決断に対して疑心暗鬼になることがあります。そして、その「認知的不協和」がおさえられなくなると、キャンセルや返品につながってしまいます。
こうした相手のネガティブな感情をクリアにするために、相手の下した決断をほめましょう。「あなたは、このタイミングでしか手にすることのできない、すばらしい買い物をされましたね」 と相手の意思決定を肯定します。すると、相手は「自分がしたこの決断は、正しかったんだ!」と喜び、その決断を持続させる方向に気持ちが固まっていくのです。
より効果的に「自己正当化」させる方法とは?
続いて、「自己正当化」を効果的に用いるコツについてお話しします。
相手の「自己正当化」を促すコツは、相手の決断の正しさをほめるだけではなく、正当であったとみなせる理由も合わせて伝えることです。
たとえば、お客さんが高価な値段のバッグをその人の母親のために購入したとしましょう。そのあとに「そのバッグを、お母さまは本当に喜ばれると思います。これは、弊社の専属の職人がひとつひとつハンドメイドで作ったもので、使っている革の柄も一つとして他に同じものはありません。つまり、世界に一つしか存在しないバッグです。お母様にとって思い出のプレゼントになることは間違いありません」と伝えます。少し無理してでもこのような理由を付けることで、購入した相手の自己正当化を促すことができるのです。
この手法は、人間のバイアス(偏見)を利用していることもあり、非常に強力です。そのため、用いる際にはあなたの倫理観や道徳心がとても重要になってきます。
つまり、交渉相手に対して不利になるような契約を結んだとしても、この手法によって相手は満足した気持ちになったり、契約内容を読み返したりしようとしなくなる可能性があるのです。だからこそ、相手の自己正当化を促すための理由付けは、必ず相手のためになることを大前提として伝えるようにしましょう。単にキャンセルや返品を防ぎたいという自分自身の利益や保身のためだけに用いないようにしたいものです。
相手が「自己正当化」を仕掛けてきたら
最後に、相手から「自己正当化」を仕掛けられたときの対処法についてお伝えします。
あなたが決断したことに対して、関係性の浅い相手がやたらとほめてきたり、正当化を促す理由となるような発言をまくし立ててきたりしたら、注意が必要です。 購入後や合意後に相手の口数が多くなるのは、自己正当化を促している可能性が高いからです。
決断したあとは、あなたのその決断に対する相手のほめ言葉には乗せられないようにしつつ、「裏があるのでは?」と疑ってみるようにしましょう。決断しても、合意前であれば、相手が提示してきた条件を再度洗い直し、合意を見送ることも可能です。
自分と相手の互いのメリットを見据えながら、交渉の場で「自己正当化」をうまく使っていきましょう。
[参考文献]
・Blanton, H. & Cooper, J. & Skurnik, I. & Aronson, J. (2009). “When bad things happen to good feedback: Exacerbating the need for self-justification with self-affirmations”. Personality and Social Psychology Bulletin, 23(7), 684–692.
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参考URL
https://www.msn.com/ja-jp/money/career/%E9%A0%AD%E3%81%AE%E3%81%84%E3%81%84%E4%BA%BA%E3%81%AE%E6%A5%B5%E6%84%8F-%E7%9B%B8%E6%89%8B%E3%81%AB-%E3%82%84%E3%81%A3%E3%81%B1%E3%82%8A%E3%82%84%E3%82%81%E3%81%9F-%E3%81%A8%E8%A8%80%E3%82%8F%E3%81%9B%E3%81%AA%E3%81%84%E3%83%86%E3%82%AF%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%A8%E3%81%AF/ar-AA18J8Ll?ocid=msedgdhp&pc=U531&cvid=8744bc37db2843c68568ea047476163e&ei=9
合意に至った相手の決断を肯定し、正当であったと見なせる理由も合わせて伝えると、より効果的です。
逆に、こちらが決断したことに対して、関係性の浅い相手がやたらとほめてきたり、正当化を促す理由となるような発言をまくし立ててきたりしたら、注意が必要です。
決断した後は相手のほめ言葉に乗せられないようにしつつ、「裏があるかもしれない」と疑ってみましょう。
決断しても、合意前であれば、相手が提示してきた条件を再度洗い直し、合意を見送ることが出来ます。
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頭のいい人の極意!相手に「やっぱりやめた」と言わせないテクニックとは
ダイヤモンド・オンライン
犬塚壮志 によるストーリー • 金曜日
内定者から辞退される、一度購入すると決めたものをキャンセルされる……ビジネスにおいて、一度合意に至った件を「やっぱりやめた」と心変わりされるのは非常につらいものです。心変わりを防ぐためのとっておきのテクニックを、書籍『頭のいい人の対人関係 誰とでも対等な関係を築く交渉術』の著者が、そのテクニックを紹介します。(教育コンテンツプロデューサー/株式会社士教育代表取締役 犬塚壮志)
いったん合意したことを覆されると、受け手のダメージは大きい
あなたは、互いに話し合って合意したことを、あとから覆されて悔しい思いをしたことはありませんか? 上司と会議で議論していったん取り決めたことなのに、どこかから横やりが入ったのか「やっぱり、あれ、やめようか。もう少し様子を見よう」などと言われ、怒りを通り越して呆れてしまった……というような経験です。
あるいは、あなたが自社の新規採用担当者だったとしましょう。内定を出したあと、最も気を配るべきことは、内定者からの辞退を避けることです。これは企業の人事の方から直接聞いた話ですが、社員ひとりを採用するには数百万円のコストがかかっています。コスト面だけでなく、社員数の担保や配属先の調整にも大きな影響が出てしまいます。そのため、採用担当者は内定を出した後、その内定者の辞退をいかに防ぐかに注力します。にもかかわらず、内定を出した後に心変わりして辞退されてしまうと、大打撃です。
同じように、商品の購入後の返品、サービスやイベントの申し込み後のキャンセルなど、合意後の心変わりというのは、売り手側からすると落胆させられますよね。だからこそ、一度合意に至ったあとも油断ぜず、その合意を取り下げられないような工夫が必要です。
実際、ビジネス上の心変わりには、私も何度も苦い経験をしてきました。
会社名という看板がなくなり、OKのはずの提案が覆される
私は有名予備校の講師をしていたのですが、30代半ば過ぎで独立し、教育事業を行う会社を立ち上げました。当初は講師時代の経験から生まれたアイデアを実現していくことで、ある程度スムーズにビジネス化が進んでいくと考えていたのです。
ところが、会社(予備校)の看板がなくなると、最初は「面白いね」と言ってもらえていたアイデアの評価が落ちていくのを如実に感じました。内容は変わらないのに、看板という信用の裏付けがなくなかったからだと気づいたとき、自分の立場の弱さを痛感したのです。
打ち合わせやメールで「OK」の返事をもらったクライアントから、契約書で締結する段階になって、「改めて考えたのですが、やはり今回は契約を見送ることにさせてください」と一言メッセージがあり、それっきり……ということを何度も経験しました。
もちろん、私自身にも至らなかった点があったのだとは思います。しかし、一度は「OK」がもらえるということは、アイデアやプランに魅力がないわけではないはずです。
もともとのアイデアが悪くないのだとすると、こうした交渉事をどのように進めれば相手からのキャンセルを防ぐことができるのか……。私は好奇心と必要性に駆られて、交渉学を学び始めました。交渉に関わる古今東西の文献を1000本以上読破し、その対策を探ったのです。
合意後の心変わりを防ぐ最も有効な手は「ほめ称える」
結論から言うと、合意後の心変わりの対策として最も効果的なのは、「相手の決断をほめ称える」でした。
というのも、私たちには自分の意思決定が正しいものだと思いたい「自己正当化」の欲求があるからです。この自己正当化の欲求は「認知的不協和」から逃れようとする、人の本能の一種です。認知的不協和とは、「人間が自己の決定に対して不安を感じ、自己維持のために自己正当化行動を生起させること」。なんだか難しい言い回しですが、ざっくりいうと、こうなります。
・私たちは自分の中に矛盾した意見や考えを同時に持つことがある
↓
・その矛盾に気付くと、モヤモヤして落ち着かなくなる
↓
・落ち着かない状態はイヤ、不快
↓
・モヤモヤ感を解消するため、自分の考えを強引に歪めたり、本心とは異なった行動を取ってしまったりすることがある
相手の中に生まれた、この「認知的不協和」をそのまま野放しにしておくと、不安が高まり、なんとか解消したいという方向にシフトしてしまいます(Blanton,2009)。つまり、一度合意した内容に「もしかして判断が早急だった?」「もっと別の案も検討するべき?」といったモヤモヤが生じると、相手は合意を破棄しようと動き出してしまうのです。
この心の動きを防ぐために有効なのは、あなたが、合意に至った相手の決断を肯定してあげることです。
「すばらしい決断をされましたね」
「勇気のある判断です」
「この合意で私たちの関係性はより良いものになります」
こうしたニュアンスを伝えることで、一度なされた合意を覆されにくくすることができます。これは相手に、「後付けでもいいから、自分を正当化してくれる理由が欲しい」という欲求が生じているからです。
たとえば、高価な商品を購入した人は「こんな高い値段の商品を買ってしまって、本当に大丈夫だったのかしら……」と、自分の決断に対して疑心暗鬼になることがあります。そして、その「認知的不協和」がおさえられなくなると、キャンセルや返品につながってしまいます。
こうした相手のネガティブな感情をクリアにするために、相手の下した決断をほめましょう。「あなたは、このタイミングでしか手にすることのできない、すばらしい買い物をされましたね」 と相手の意思決定を肯定します。すると、相手は「自分がしたこの決断は、正しかったんだ!」と喜び、その決断を持続させる方向に気持ちが固まっていくのです。
より効果的に「自己正当化」させる方法とは?
続いて、「自己正当化」を効果的に用いるコツについてお話しします。
相手の「自己正当化」を促すコツは、相手の決断の正しさをほめるだけではなく、正当であったとみなせる理由も合わせて伝えることです。
たとえば、お客さんが高価な値段のバッグをその人の母親のために購入したとしましょう。そのあとに「そのバッグを、お母さまは本当に喜ばれると思います。これは、弊社の専属の職人がひとつひとつハンドメイドで作ったもので、使っている革の柄も一つとして他に同じものはありません。つまり、世界に一つしか存在しないバッグです。お母様にとって思い出のプレゼントになることは間違いありません」と伝えます。少し無理してでもこのような理由を付けることで、購入した相手の自己正当化を促すことができるのです。
この手法は、人間のバイアス(偏見)を利用していることもあり、非常に強力です。そのため、用いる際にはあなたの倫理観や道徳心がとても重要になってきます。
つまり、交渉相手に対して不利になるような契約を結んだとしても、この手法によって相手は満足した気持ちになったり、契約内容を読み返したりしようとしなくなる可能性があるのです。だからこそ、相手の自己正当化を促すための理由付けは、必ず相手のためになることを大前提として伝えるようにしましょう。単にキャンセルや返品を防ぎたいという自分自身の利益や保身のためだけに用いないようにしたいものです。
相手が「自己正当化」を仕掛けてきたら
最後に、相手から「自己正当化」を仕掛けられたときの対処法についてお伝えします。
あなたが決断したことに対して、関係性の浅い相手がやたらとほめてきたり、正当化を促す理由となるような発言をまくし立ててきたりしたら、注意が必要です。 購入後や合意後に相手の口数が多くなるのは、自己正当化を促している可能性が高いからです。
決断したあとは、あなたのその決断に対する相手のほめ言葉には乗せられないようにしつつ、「裏があるのでは?」と疑ってみるようにしましょう。決断しても、合意前であれば、相手が提示してきた条件を再度洗い直し、合意を見送ることも可能です。
自分と相手の互いのメリットを見据えながら、交渉の場で「自己正当化」をうまく使っていきましょう。
[参考文献]
・Blanton, H. & Cooper, J. & Skurnik, I. & Aronson, J. (2009). “When bad things happen to good feedback: Exacerbating the need for self-justification with self-affirmations”. Personality and Social Psychology Bulletin, 23(7), 684–692.
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参考URL
https://www.msn.com/ja-jp/money/career/%E9%A0%AD%E3%81%AE%E3%81%84%E3%81%84%E4%BA%BA%E3%81%AE%E6%A5%B5%E6%84%8F-%E7%9B%B8%E6%89%8B%E3%81%AB-%E3%82%84%E3%81%A3%E3%81%B1%E3%82%8A%E3%82%84%E3%82%81%E3%81%9F-%E3%81%A8%E8%A8%80%E3%82%8F%E3%81%9B%E3%81%AA%E3%81%84%E3%83%86%E3%82%AF%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%A8%E3%81%AF/ar-AA18J8Ll?ocid=msedgdhp&pc=U531&cvid=8744bc37db2843c68568ea047476163e&ei=9
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